【ちいさな本屋さん展 刊行物紹介⑳】『遠野郷しし踊り大図鑑』(中野商店)
柳田国男の『遠野物語』にも登場する「しし踊り」は、遠野市の郷土芸能の代表格。北東北のしし踊りは「太鼓系」と「幕系」に大きく分類されますが、遠野のしし踊りは「幕系」のしし踊りです。牛の角、鹿の目、龍の鼻をもつ面をつけたししが、幕やたてがみに見立てた「カンナガラ」を振り散らしながら、笛や太鼓の音に合わせて刀や扇を持った子どもたちと踊ります。
『遠野郷しし踊り大図鑑』は、遠野市出身の現在は東京に暮らすグラフィックデザイナーが企画、制作をした本です。自身がしし踊りを踊ったことはありませんが、広い遠野郷にちらばる13の保存会に足を運んで取材・撮影をしています。
それぞれの保存会に伝わる歴史、なりたちなどは、すべて口承で伝わって来たこと。それぞれの伝統やこだわりに培われたストーリーがあります。それらを文章化し、団体ごとの踊りの特徴、その歴史まで網羅し、フルカラーのふんだんな写真で一堂に見比べることができるのは本書が初めてです。ししのたてがみである「カンナガラ」の作り方のレポートや、しし頭のかぶり方、しまい方などのコラムも一読の価値あり。また、巻末の120を超える「しし頭コレクション」も圧巻です。
まだ遠野郷のしし踊りを見たことがない人はもちろん、何度もしし踊りを目にしている方々も、本書を通してより身近で新鮮に、これまでの何倍も興味深くしし踊りを見られるようになると思います。読み終わったときには「しし踊りかっこいい!」と思っていること間違いなし。本書を持って是非本物を見に遠野郷を訪ねてください。